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武内竜一(アート・コレクター) ―アートのある生活

アートに囲まれた暮らしができたら。憧れるけど、お金持ちでないと無理…と思う人も多いはず。じつはこの方も以前はそのひとりでした。いまでは100点を超える作品を持つアート・コレクターの武内さんにとって、作品を所有するということとは。

写真、インタビュー:山田敦士

 

もともとアパレルの仕事をしていたので、デザインをはじめとしたクリエイティブな世界には興味がありました。お店のコンセプトが〝リアル・ロンドン〟で、ロンドンのいまを日本に持って来るということをテーマにしていました。半シーズンに一回コレクションがあって、雑貨や靴、ベルトなど日本に入って来てないブランドを持ってくる仕事をしていました。音楽はもちろん、もともとロンドンの文化が好きだったので、知りたいと思うと、勉強するじゃないですか。その後、アパレル業界から映像業界の仕事に移るんですけど、転職してもやっぱりロンドンっぽいものが好きで。英国のアーティストを調べていくうちに、バンクシーの存在を知ったんですよね。いろいろ調べたら4~5万ぐらいで作品が買えることがわかって、それが9年ほど前、’04年かな? 当時はいまほど高くなくて、ちょっと頑張れば買える価格でした。最初に買ったのはバンクシーですが、それからD*FACEなどグラフィティ・アーティストのシルクスクリーン作品を購入するようになった。グラフィティはストリート・アートのひとつですが、既存の体制に対する政治的なメッセージや批評性、自分の価値観をシニカルに変えてくれるところがすごく面白いんです。

ロンドンのアーティストがきっかけで、アートに興味を持つようになりました。

その後、「GEISAI」という若手作家の作品を購入できる見本市を見に行って、日本人作家が描いた写実のペインティングを初めて買いました。シルクスクリーンは印刷の一種なので、デザインを決めるまでは時間がかかるけど版が出来上がったら一気に150枚刷って売ることができる。だけど油彩や水彩などのペインティングは一枚一枚描くので、当然一点もの。シルクスクリーンと同じぐらいの値段で大きなサイズの作品が買えることに驚いて。こんな安い値段で買えるものなんだって。それが日本のコンテンポラリー・アート、現代美術作品を買った最初の経験でしたね。
「GEISAI」をきっかけにアート・イベントやギャラリー巡りをはじめて、若手の作家さんで無理なく買えるような値段、一点数万円のペイント作品を買っているうちに、いつの間にか百点以上を所有するようになりました。
作品を購入する方法はいろいろで、WEBサイトや、作家から直接購入するときもあります。いまは海外からグラフィティの作品を買ったりしているので、エージェント(代理人、代理店)を立てて作品情報を集めてもらって、その中から欲しいものをチョイスして買うようにしています。僕が持っている情報もあるので、国内でこの作品が出回っているとか、コンディションはどうなのかとか、周囲のコレクター同士、情報交換をすることもあります。WEBサイトを見たときの雰囲気はすごくいいんだけど、実際に送られてきた作品を見て「何だこの荒いプリントは!」っていうこともあるし、この作家は大丈夫っていうのは作品を見ないと分からないので、できるだけギャラリーやオークションで実物を見て買っています。
例えばバンクシーの作品、「NAPALM」のアーティストプルーフ(AP)。報道写真家、ニック・ウットが撮影した写真のパロディで、ナパーム弾から逃れる子供をミッキー・マウスとドナルドが手を引いて歩く、現代社会を風刺した作品なんですが、じつはシルクスクリーンのプリントのクオリティがかなり低いんですよ。プリントはひどいんですけど、27枚しか刷られていなくて、その中でサインが入ってるのはファーストナンバーの7枚のみっていう希少価値がある。じつはバンクシーの場合って、サインがないのがほとんどなんです。近年の作品はサイン入りのものが多いんですが、本人が書いたサインではないと言われることもあり、’07年までの初期~前期のプリントでサイン入りじゃないと僕の中では意味がなくて、サインがない作品が市場に出たときに、今後、評価されるのかっていうこともあるし、そういった動向も注視しています。ビジョアの「LV Child」は、アート市場での価格が高いときに購入したので、いまは価値がかなり下がってますけど。そんなときもあります(笑)。
アーティストがいままでどんな作品をつくってきたのかというところも、見るようにしています。作風が毎年毎年、変わっている人の作品は価格が安かったとしても、僕の場合は敬遠することが多いですね。作家って自分をストイックに追求していくうちに少しずつ作風が固まっていくんですけど、目標とするテーマに向かっているなと思えたときに、作品が欲しくなります。バンクシーやD*FACEもですが、初期から注目している作家がメジャーなシーンに上がると嬉しいし、そういった楽しみ方もありますね。

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武内竜一さんと奥さんの知子さん。夫婦ふたりでアート・フェアやギャラリーを巡るときも多いとか。アパレル業界で働く奥さんもいまや武内さんをしのぐコレクター。アートに関する話題が、ふたりのコミュニケーションにもなっている。

国内外のグラフィティやペイントを購入するうちに、写真作品にも少しずつ興味が湧いてきました。美島菊名さんの作品も最初「GEISAI」で見たんですよ。ただサイズが大きくて、セクシャルな作品だし、とても家には置けないなと思った。で、一度買うのをあきらめて、しばらくして、あるギャラリーで彼女の作品が展示されるっていうのを聞いて、朝イチで見に行ったらちょうどいいサイズで、いまだったらナンバー1、つまり1/7のナンバーを購入できますよって言われて、即決しました。
そのときまでは、「写真のよさってなんだろう?」って、いまひとつわかりませんでした。以前、ベッティナ・ランスの展示を初めて見たとき、ポートレートってこういうことなんだって何となくわかったけど、その後、納得できる作品と出会えなくて、ギャラリーで見る機会も少ない。自分の基準も出来上がらないから、写真を買うことは最近までなかった。美島さんの作品は、タブロー写真。わかりやすい言葉では〝演出写真〟という説明の方がいいかもしれませんが、一点をつくり込み、ひとつのイメージを生み出していました。作家さんと直接、話をしたとき、彼女は写真を「フィルムを使ったキャンバス」ととらえていて、全部の構図をまずデッサンして、被写体を配置し、シャッターを押して形にした、と語っていて、そうか、ペインティングと同じ価値感なんだ、ということを理解し、購入しました。
その後、シャーロット・コットンの「現代写真論」を読み、タブロー写真とストレート・フォトの違いを知りました。写真って表現のひとつでしかなくて、タブロー写真となった時点で、作家が何かを表現する材料というか〝メディア〟になる。だからたとえば、写真家がデッサン、ドローイングを描いたっていいんだと思います。
たとえば三田村光土里さんは、生命がある状態と、ない状態を表現したいっていうだけで、写真を撮ってるんですよ。生命感があるものとまったくないもの。2点の組写真で、鳥が写っている瞬間と飛び去ってしまったあとの風景をとらえている。作家さんの話を聞き、直接作品を見て、鳥というエレメント(要素)がなくなるまで待っていた時間が面白いなと思ってて。そこで、生命がなくなっただけじゃなくて彼女の時間も消費してるような気がして。この作品を見てから、写真をメディアのひとつとして認めることもできるんだろうな、と思いました。逆になんでもっと写真を表現として始める人がいないのかなとか、風景写真やスナップ写真だけじゃなくて、もっとアグレッシブで実験的な方法があるんじゃないかとか、作品を通していろいろなことを感じたりします。

大量生産のモノばかりでなく、作り手の想いがこもった作品に、囲まれて暮らしたい。

〝エディション〟というのは、その作品が「何枚までしか存在しない」という枚数のこと。ペインティングは一枚ずつ描くのでもちろんすべて一点ものですが、グラフィティや写真は、限られた枚数しか存在しないからこそ、作品の価値が生まれる。グラフィティのシルクスクリーンは、100枚とか、150枚という枚数がつくられる比較的点数が多いアートなので、僕自身はもともとエディションに対するこだわりはそれほどないんですけど、たとえばポスターを家に飾っている人がいたとして、もしいつも目にしているポスターが100枚しか世の中にないと知ったら、きっと愛着が湧くんじゃないでしょうか。大量生産で消費されているものばかりに囲まれているって、不自然な感じがします。まぁ、現代的といえば現代的なのかもしれないですけど。
家にある陶器を眺めていて、ガシャン、ガシャンという機械の音が聴こえるより、ろくろを回したり、上薬を塗り、生命を吹き込む作家の息吹を感じられる方がうれしい。たとえばうちにある大島梢さんのペインティング作品。これなんてすごく精密に描かれているから出来上がるまで2週間かかってるそうなんです。作家さんが費やした時間、想いのようなものが、作品を通して透けて見える。日本人作家の作品を購入する場合は、愛着もあるので、手放したことは一度もないです。日本の現代美術の場合はグラフィティを買うときと違って、評価されていない人の中から探す方が面白いというか。新しいファッションや、最先端の音楽を見つけるのと同じ感覚なのかもしれません。
アートに興味はあるけど、買ったことはない、という人は多いでしょう。だけど、みなさんには一点でいいから作品を持ってもらいたいなって思います。一点持つだけで、価値観が変わるし、 心の隙間を埋めることができる。僕がそうだったから。それに、家に友人を招いたときに作品が飾ってあると「こういう人なんだな」って人間性が分かったり、コミュニケーションの材料にもなる。
消費されるものではない、作り手の想いがこもった作品に囲まれると、きっと心も生活も豊かになると思います。

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武内竜一(アート・コレクター)

掲載号:SHUTTER magazine Vol.5
(2012年6月30日発売)

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